馬と鹿
保健室に入ると、何故か白衣姿のルカさんがいた。
「…何やってるんですか、ルカさん」
「見て分からないか?君は馬鹿だな」
そう言って問答無用で俺の怪我した指先に消毒液を吹きかけていくルカさん。
「痛いですって!もっと優しくして下さいよ!」
「無茶な注文だ。ドアに指を挟む馬鹿にかける情けなど生憎僕は持ち合わせていない」
冷淡に切って捨てるルカさんの、しかしその治療の的確さと迅速さは賞賛に値する。
が、せめてそこに一握りの情けを加えてくれれば、俺としては大変有難いのだけれど。
「そんな、馬鹿馬鹿と連呼しないで下さい」
綺麗にガーゼの巻かれた指を庇いながらの抗議だったが、生憎今まで俺の悲痛なまでの叫びを聞き入れてもらった試しがない。
そして、今回も例外ではなかったようだ。
「馬と鹿の知恵が合わさってるんだ。少なくとも馬や鹿以下の知能ではないだろう」
その淡々とした口調に、危うく成る程と納得しかけてしまった俺。
「…それ、褒め言葉じゃないですよね?」
胡乱気に問いかければ、ルカさんは至極尤もな顔をして。
「誰が褒めていると言った?」
君は本当に馬鹿だなぁと、呆れたように繰り返すルカさん。
どうしようもなく泣きたくなったのは、指の傷の痛みの所為だけではきっとない。
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