人でなし

「却下」
 早朝の教室。いつものようになにやら難しそうな本から視線を上げようともせず、ルカさんは一刀両断した。
「…って、俺、まだ何も言ってませんよ?」
「どうせ、宿題を見せて欲しいとか、そういう用件だろう?」
 う…。何故わかる。貴方は人の心が読めるのか。…まぁ、ルカさんならそんな事が出来ても不思議ではないが。
「君が早朝僕に話しかけてくるとすれば、宿題写しの依頼かくだらないドラマの評価かのどちらかだ」
 うう…。俺の行動パターンが読まれてる。さるがルカさん。無関心な振りをしていても、ちゃんと俺の事見ていてくれたんですね。
 思えばルカさんとの付き合いも、早三ヶ月。哀しい事も、辛い事も多々ありました。それでも、こうして今日まで続いてこれたのは、俺とルカさんとの間に深い思いやりがあったからです。
 と、いうことで。
「宿題、写させてください」
 笑顔でにっこり。いつもより一・四割増し可愛く言ってみました。
「―却下だ」
 何の躊躇いも見せずに切り捨てるルカさん。
 俺の笑顔と努力を返せ。
「…ルカさんの人でなし」
 さすがに大声で言う勇気はなかったので、ぼそりと呟けば、読んでいた本から初めて顔を上げたルカさんが、珍しく、それこそ明日槍でも降るのではないかというくらい珍しく、にっこりと笑って見せた。
「よく言われるよ」

    あ…怒ってます?ルカさん。


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