普通


 普通でいる事が実は一番難しいんだよ、と。いつもの事ながらルカさんが唐突に小難しい事を呟いた。
「普通、ですか?」
「普通とは、一本の細い綱。僕達は、まるで綱渡りをしているようなものさ」
 はぁ、と。わけがわからないので一応生返事を返しておく。
 が、その言葉のおかげで今まで漠然と感じていた疑問の答えが急に見えた気がした。
「あぁ、だからルカさんの傍にいると安心するんだ」
 訝しげな視線を向けてくるルカさんに、俺は満面の笑みを向ける。
「だって、すぐ近くに、普通を止めてもちゃんと生活している見本がいるんですもん」
 微かに眉を寄せたルカさんは、黙って手に持っていた分厚い本で俺の頭を叩いた。


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