言わずと知れた

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「たまには、思っている事を口にしてもいいだろう?」
「……っとにどうしたんだ? らしくねぇ。」
「別に。」
 気紛れだ、と空目は言う。
 照れている様子などまるで無く、あくまで冷めた面で。
「……普段からそう思ってんのか?」
「どっちの話だ。」
「どっち?」
「幼馴染みと、感謝と。まあ両方思っている。今更だから言わないだけだ。」
 俊也の方も、恥ずかしさなど無く。
「……ホントにな。」
 今更。
 その言葉が、ふさわし過ぎる。
 口にしなくても、なんとなく分かっている。


 二人は幼馴染みで、


 親友で、


 俊也が空目を助けるのは当然の事で、


 空目が俊也に感謝しているのも、


 その一方で、助力が無くても構わないと思っている事も、


 全部全部、今更だ。


「これからも、お前は俺を守るんだろうな、きっと。」
「きっとな。」
 そこで会話は終わる。
 単純に話題が尽きたからだけでなく、話す必要が無いから。
 全部全部、今更。
 ……でも、
「たまには、いいな。」
「……そうだな。」
 話す必要は無い。
 それでも、話さなくては伝わらない。
 伝わっても、伝わらない。
「……よろしくな?」
「ああ。」
 それきり、二人は今度こそ何も語らなかった。
 後についてくるあやめは、柔らかに、幸せそうに微笑んでいた。


        END

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