囚われて…

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 女王の部屋がある最上階までの道を巡回の兵士に遭わないように注意して進む為、距離の稼げない事にリシャールは苛立つ自分に気付いていた。階が上がるに従って増えていく見張りを、いっその事全て蹴散らして駆け出したい。しかし、己の体力の限界を知っている彼は、自身の内から沸き上がってくる激情を必死に抑えた。
「――この先が、女王の部屋です」
 立ち止まり、物陰から示されたのは長い階段とその先に鎮座する観音扉。その扉の先に、彼はいる。
「流石に、ここからは戦闘は避けられません」
 申し訳なさそうにするアーサーに、リシャールはゆっくりと首を横に振った。
「充分ですよ、アーサーさん。貴方の助けがなければ、私達は殺されるのをただ待つだけでしたから」
「俺も、溺れていたところを助けられたし」
 三対の瞳が交錯し、誰からともなく剣の柄へと手を遣る。
「――行きましょう」
 リシャールのその一言で、三人は物陰から飛び出した。鞘から抜き放たれた刃が窓から差し込む光を弾いて鈍く煌き、突然の侵入者に戸惑っている相手を斬り伏せた。
 リシャールは、ただ前しか見ていなかった。磨かれた階段を駆け上がり、襲いくる敵を彼から託された剣で薙ぎ倒していく。
「リシャール!」
 緊迫した呼びかけに視線を投じた先で鮮血が舞う。立ち止まり、倒れ伏した敵の向こう側で剣を担いだアーロンの不敵な笑みと出会った。
「先に行け」
 すぐそこまで迫っている観音扉を顎で示し、先を促す彼に首肯を返したリシャールは、血に染まった剣の柄を握り直して残りの階段を一気に駆け上がった。目の前に聳える荘厳な佇まいの扉に臆する事なく、開け放つ。
「ザイ!」
 一瞬目を射た光の強さに目を逸らすも、慣れた視界に飛び込んできた光景に、リシャールは息を呑んだ。
「あらあら。可愛い子が、もう一人」
 侵入者にも動じる事無く、小首を傾げて妖艶に微笑む女の傍らに膝をつく相手。
「…リ…シャール…」
 動かされた真紅の双眸が自分を捉え、微かにその唇が名前を紡ぐ。女王が顎を押さえていた手を離せば、くず折れるように絳髪が地面の赤を塗りつぶした。


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