脱出

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山中では幾多の魔物達と遭遇したが、一番怖れていた竜人には出会わなかったことが幸いし、どうにか切り抜けることが出来た。
ただ、慣れない山歩きの上に何度も魔物と遭遇するため、リシャールの体力の消耗は大きく、思うようには進めなかった。



「今、どのくらいなんだろうなぁ…」

「まだそんなに進んじゃいないと思うぜ。
俺も、今は他人のことは言えないけど、あれじゃあなぁ…」

そう言いながら、ザイは、髪を振り乱し肩で息をするリシャールをみつめた。



「やっぱ、いつも馬車ばっかり乗ってると、あんなになるんだな。」

「朝のうちだけは元気なんだけどな。
要するに基礎体力って奴が足りないんだろうな、きっと。」

「奴はお坊ちゃまだから、仕方ないのかもしれないな…
関係ないけど、おまえ、確か爬虫類アレルギーとか言ってたよな?」

「なんだよ、急に…」

「なんで、女王にキスされた時、なんともなかったんだ?」

「そ、そ、そ、それはだな…」

それは、あれがアーロンにとってのファーストキスだったからなのだが、言いかけてアーロンのプライドがそれを遮った。



「それは、リシャールとおまえを助けるために無我夢中で…」

その言葉にザイの瞳が大きく見開いた。



(こいつはこいつなりに、一生懸命なのかもしれないな…)



「ありがとうよ、アン。
……そういや、あの女王はあのまま死んだのかな?」

「ば、ば、馬鹿!
なんで死ぬんだ!」

「だって、不細工なおまえの唇に触れたって言って、かなりひきつってたぜ。
顔も真っ青だったしな。
おまえのキスはたいした力を持ってるんだな!」

「ザ、ザ、ザイーーーー!!」



「お二人は、本当にお元気ですね…」

とっくみあいの喧嘩をするアーロンとザイを遠目に見ながら、リシャールがぽつりと呟いた…

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