脱出

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それからの数日間も同じような毎日だった。
険しい山と、気を許すとどこからか飛び出てくる魔物との戦い…
しかし、致命的なダメージを受ける事なく、ここまで来られたのはまだ幸運だと思うべきなのか…
リシャールは相変わらずだが、ザイの方は少しずつ体力を回復して来ていた。
この分ならあと数日もすれば、瞬間移動の魔法が使えるだろうとザイは考えていた。



「リシャール、夜の見張りは良いからゆっくり休め。」

「いえ…疲れているのは皆同じ。
私だけ、特別扱いをしていただくわけにはいきません。」

そう言うリシャールの頬はこけ、落ち窪んだ瞳の周りは黒ずんでいた。



「いや、あんたは、戦いの時に欠かせない戦力だからな。
元気でいてくれなきゃ困るんだ。」

「私は元気です…!」

リシャールの瞳だけが異様に光る…



「そ…そうか、わかった…」

言っても無駄だということを悟り、ザイはそれ以上のことを言うのはやめた。
リシャールがこれ以上無理をして倒れてしまったら、魔物との戦いの時にも不利になる。
彼を背負って歩かなければならないことにでもなれば、さらにやっかいだ。








次の日、ザイは、体調が良くないので、数日このあたりで休んでから行こうと言い出した。
この際、無理して進むより、ゆっくり休んで魔力の回復を待った方が得策だと考えたのだ。
ちょうど良い具合に、休むのに好都合な洞窟を発見することが出来た。



「じゃあ、俺達は食べるものを探してくるよ。」

アーロンとアーサーが洞窟を出てしばらく歩いた時、林の中に小さな小屋があるのをみつけた。



「こんな所に一体誰が?!」

「見てみましょう!」

二人は慎重に小屋に近付き、窓の外からそっと中をのぞき見る。




「あ!!あれは…!!」

「しっ!アーサー!気付かれちまう!」

「誰じゃ?!」

アーロンはアーサーの口を塞いだが、時すでに遅し…
二人は、中にいた老婆にみつかってしまった。



「こんな山奥に人間とは珍しいな。
しかも、竜人と一緒とは…」

「よくもそんな白々しいことを!
私を元に戻せ!!」

「な、なんだって!
それじゃあ、あんたを竜人に変えたのはこの婆さんなのか?!」

アーサーは深く頷いた。



「なんじゃと、わしが?
わしはそんなこと……はは〜ん、わかったぞ。」

「なにがわかったんだ?」

「それはきっと、ラーナかマーナの仕業じゃな。
わしは、ターナ。
わしらは三つ子の三姉妹でな。
見分けが付かんのは当然じゃな。」

「三つ子だって?!
それで、その、ラーナとマーナってのはどこにいるんだ?」

「ラーナは昨年グレゴラスの町の近くに引っ越すとか言ってたが、マーナは気まぐれじゃからな。
今、どこにおるかはわからん。」

ターナは姉妹が迷惑をかけたといって、二人に食べるものを分けてくれた。


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