一難去ってまた一難!

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「その目的は、分かりませんか?」
 無言の首肯に、リシャールは問いを重ねる。
 しかし、ラーナは静かに首を横に振った。
「占師は、星の意思を読み解く者。大局を知るも、その未来を垣間見る事は赦されぬ。それは、神が定めた人の枠を超える行為じゃ」
 重い言葉に、二人はただ黙るしかなかった。
 何処か緊張を孕んだ沈黙が室内を満たし、椅子を引く音が数秒の静寂に終焉を告げた。
「さて。用が済んだのならば帰りな。わしはこれから眠るところだったんだよ」
 老婆の促しに、二人は席を立つ。
「ラーナさん、有難うございました。取り敢えず、当初の目的通り、マーナさんを尋ねようと思います」
 出口まで見送ってくれたラーナに、リシャールは深々と頭を下げる。年配の相手に礼儀を欠かない彼は、ラーナのお気に入りだ。
「本当なら、今にでもあの童を追いたいんだろう?」
「アーロンさんは、仲間ですから」
 心の底を見透かすようなラーナの瞳を真っ向から受け止めた彼は、その言葉を否定しなかった。もう一度深々と頭を下げ、リシャールは帰路に着く。
「仲間、ねぇ…」
 腕を組み、遠ざかっていく背中にザイは何処か皮肉げな笑みを刻む。緩く頭を振れば絳髪が揺れ、その後を追おうとした時だった。
「―――ザイファーラ=ユヒト」
 正式名で呼ばれ、ザイは緩慢な動作で振り返る。
 絡み合った、真紅と金の双眸。
「その身に流れる血を、忘れるでないぞ」
 勇者に選ばれた意味を、よく考えてみるのじゃな。
「・・・・・・・・・」
 最高峰の魔女の忠告に、しかしザイはその真紅の双眸を微かに細めただけだった。
「ザイ?」
 仲間がついてこないことに気付いて促してくるリシャールの呼びかけに、別れの挨拶のつもりか軽く手を振った年若い魔術師は歩みを進める。
 遠ざかっていく二つの背中を見えなくなるまで見送っていたラーナは、玄関の扉を閉めた。
「やれやれ。騒がしい連中じゃわい」
 疲れた疲れたと呟きながら、曲がった腰を叩く。机の上に置きっ放しにしておいた水晶を元あった場所に戻したラーナは、勇者二人の来訪によって阻まれた睡眠を貪るべく、寝室へと足を向けた。

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