一難去ってまた一難!
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「おーい、ば…マーナさん、いるか?」
「遅かったですね…」
ザイとアーロンを出迎えたのは、たった一日でえらくやつれたリシャールだった。
「お…おいっ、あんた…大丈夫か?」
「ええ…ご心配なく…」
抑揚のない口調でリシャールが答える。
「遅かったじゃないか。
さ、とっとと済ませてしまおうかのぅ!」
ザイとアーロンが部屋に入ると、いつもにも増して元気なマーナが膝を叩いた。
「こっちじゃ。」
マーナはアーロンを奥の部屋に案内する。
その部屋の床には、びっしりと奇妙な文字の書き込まれた魔方陣が描いてあった。
「そこでじっとしとくんじゃ。
わかったな?」
「わ、わかった。」
マーナに言われるままに、アーロンは魔方陣の真ん中に腰を降ろした。
マーナはすぐさま低い声で呪文を唱え始め、それと同時にアーロンの回りに白く薄い靄がかかり始める。
靄は次第にその濃さを増し、やがてアーロンの姿が見えなくなった頃、マーナの呪文が途切れた。
「これで仕舞いじゃ。
もう出て来て良いぞ。」
「本当に戻ったのか?」
靄の中から現れたアーロンを見て、ザイとリシャールは瞳を大きく見開いた。
「ば、ばあさん…こいつは…」
「えっ?俺、元に戻ってないのか?それとも何かおかしいのか?」
アーロンは、ふと硝子窓に映った自分の姿に気付き、大きな声をあげた。
「ば…マーナさん、これはどういう言う事なんだよ!」
「どうって…何がじゃ?
わしは言われた通り、魔法を解いてこの男を元に戻したじゃないか。」
「こ…こいつは、こんな男前じゃない!
しかも、こんな理知的な顔でもなけりゃ、こんな上品でもない!」
「おい…ザイ…
それは言い過ぎだ…」
アーロンは、人間の姿に戻ったが、その顔はアーロンのものではなく、身長も本当のアーロンよりずっと高くなっていた。
「そんなこと知るかね。
わしは言われた通りのことをしたまでじゃ。」
「あ、良いんだ。
俺、このままで全然構わないから!」
アーロンは硝子窓をのぞきこみ、角度を変えて自分の姿を見てはにっこりと微笑む。
「ば…馬鹿な!
おまえがこんなカッコイイままで良いわけないだろ!」
「元の顔とそんなに変わってないじゃないか。
俺はこれで十分だ!」
言い争いから、やがて取っ組み合いに発展した二人を尻目に、リシャールはマーナに尋ねた。
「……つまり、アーロンさんに魔法をかけたアーサーさんが魔法を解かなければ、アーサーさんとアーロンさんの身体は入れ替わったままだと…そういうことなのですね?」
「その通りじゃ。」
マーナはにっこりと微笑む。
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