一難去ってまた一難!
5ページ/18ページ
「――取り敢えず、魔法を解いてもらう為にマーナさんに会いにロータリナ村へ向かうという事でいいですね?」
宿屋の一室。椅子を引いて立ち上がり、小さなテーブルを囲むように座っている二人に最終確認を行ったのはリシャールだった。
アーサーを追うにも行く先など判らないし、何よりも街中を歩くだけでも神経を使う竜人の姿でい続ける事はどう考えても効率的ではない。なので、ここは最初の旅の目的通り、まずはマーナを捜し出してこの魔法を解いてもらおうという結論を導き出したのだ。
黒の双眸が滑る先でアーロンからの力強い頷きを貰うも、その先で無視を通されれば眉間に微かな皴が刻まれる。
「ザイ。聞いているのですか?」
音を立てて木製テーブルに両手を叩き付け、リシャールは対面の相手に顔を近付ける。
不愉快そうにちらりと真紅の双眸がリシャールを捉えるも、頬杖を突いたザイは再び視線を窓の向こうへと向けてしまった。
「聞いてるよ。でも、乗り気がしない」
「ザイ!?」
予想もしていなかった言葉を耳にして素っ頓狂な声を上げるリシャールをうるさそうに見遣り、ザイは盛大な溜め息をついた。
「恩義があるのは飽く迄もアーサーであってアンじゃない。俺が動く理由がない」
その唇が紡ぎ出す言葉の冷たさに唖然としている二人を他所に、ザイは自らの考えを容赦なく訴える。
「その体は確かにアーサーの物だが、アンと入れ替わったのならば間接的でも人間に戻るという目的は達成したんだ。その後に生じた厄介事まで背負わされたら堪らない」
その理論は、恐らくザイの中では一本の筋が通ったものなのだろう。しかし、不運という言葉で片付けるにはあまりにも酷な運命を背負わされた身としては、そんな屁理屈だらけの言い分を受け入れる訳には到底いかなかった。
「ザイ!お前、どんだけ非情なら気が…!」
「うわ!顔を近付けるな!」
律儀にリシャールが入れてくれたお茶の入った湯飲みが浮く程に強く両拳をテーブルに叩き付け、身を乗り出してきたアーロンのトカゲ顔を間近で見てしまったザイは、珍しく動揺を表して壁際へと後ずさった。
「な…ッ。アーサーの時は平気だったくせに!」
「その中身がお前だと思うと何故か拒否反応が起こるんだ。条件反射だから仕方がない」
「はあ!?」
自分に罪はないとこれまた自分勝手な理屈を平然と口上するザイに、アーロンの怒りのメーターの針は限界を超えた。
【次へ】/【前へ】