一難去ってまた一難!
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再びテーブルを叩く音が響き、トカゲ姿のアーロンがザイに歩み寄ろうとするよりも一足早く、彼の前に仁王立ちした相手がいた。
「ユヒト殿!」
自分の目の前に立った背の高い相手に、ザイは思わず顔を引き攣らせる。その、黒の瞳に浮かんでいる涙。これは、感情爆発一歩手前の合図だ。
「ユヒト殿!アーロンさんは大切な私達の仲間です!それを…貴方という人は…ッ」
また説教されるのかと辟易した様子だったザイの表情から、耳に飛び込んできた言葉に感情が掻き消えた。
しかしそんなザイの様子には気付かずに、リシャールは彼の腕を掴んで必死に訴えた。
「アーロンさんを巻き込んだ原因は私達にもあります!ザイが本物の勇者なのかと疑われたあの時、しっかりとした説明をしなかったのですから」
疑われたという過去形ではなく疑われているという現在進行形がこの場合正しい言葉の遣い方だとどうでもいい事をザイは思ったが、口に出したりしない。これ以上何か言おうものなら、もっとややこしい事態に発展することなど火を見るより明らかだ。
「何よりも、私達はヴェーラ様に選ばれた勇者!私達がすべき事は、人々が幸せに暮らせるようにする事です!」
どう考えても、竜人姿のアーロンが今後幸せに暮らせる可能性はほぼゼロに近い。リシャールの理論に則るのならば、不幸を背負った者を助けるのもまた、勇者である自分達の役目なのだ。
その理屈は、ザイも理解した。しかし、決定的に間違っている部分がある。
(俺、一度も勇者になるなんて言ってないんだけどな)
根本的な所で認識の相違があるのだから、元々会話など噛み合うはずもない。
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