一難去ってまた一難!
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「・・・・・・・・・・・」
涙目で見上げてくるリシャールに、ザイは諦めたように溜め息をついた。自分の腕を掴んでいる相手の手をやんわりと引き剥がす。
「わかった。わかったから。行けばいいんだろ、行けば」
投げやりな了承に何か言いたそうな顔をしたアーロンを視界の隅に留めながら、ザイは「ユヒト殿!」等と感激しているリシャールを放って部屋の入り口へと足を向けた。
「ザイ。何処へ行くんだ?」
非常に面倒くさい状況を放棄して姿をくらまそうと画策しているザイは、背に掛けられた問いかけに一応は足を止めて振り返った。
「婆さんの所」
「あ?何で、また」
自分の世界から戻ってきたリシャールを加えた二人分の怪訝そうな視線を貰えば、ザイは軽く肩を竦めて見せた。
「あの婆さん、占いが得意だからさ。アーサーの行き先でも占ってもらおうかと思っただけだよ」
眉間の皴をより一層深くした彼等を放置して、ザイは扉の向こうへと姿を消してしまう。
「あ、ザイ!待ってください!私も行きます!」
「じゃあ、俺も…」
「アーロンさんはここにいて下さい」
我に返ったリシャールが扉に手を掛けた体勢で振り返り、一緒に部屋を出て行こうとしたアーロンに笑顔を向ける。
「すぐに戻りますから」
輝くような笑顔に、アーロンは従わざるを得なかった。
「はい…」
素直に頷けば、閉じられる扉。
「…つまり、俺は足手まといって事?」
ザイはともかくリシャールはただ未だに治らない彼のじんましんの事を心配して部屋にいるよう言ったのだろうが、不幸が続いているアーロンの思考はどうもネガティブらしかった。
また、万が一この姿を往来で晒してしまったらかなりの騒ぎになる事は流石のアーロンにも判るので、その事がより一層彼の被害妄想に拍車を掛ける結果と相成っている。
ぐすりと鼻を啜る音は、吹き抜けた風の冷たさへの生理的反応の所為だけではきっとない。
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