一難去ってまた一難!

8ページ/18ページ

 天を見上げれば、生命の源である太陽は中天よりも少し西に傾きつつあった。駆け抜ける風は肌寒さを含みながらも、降り注ぐ太陽光で熱された空気は暖かく、広場などで日向ぼっこをしている町人の姿もちらほらと見られた。
 そんな、平和な光景にリシャールは微笑む。
 魔物が昼の世界を侵し始めたとはいっても、まだ町の中は人の営みが理として残っている。魔王が目覚めたかもしれないという噂は確かに人々の生活に影を落としていたが、それでも耳に届く子供達の笑い声は消えていなかった。
「ところで、ザイ。何故、ラーナさんが占いが得意だという事を知っているのです?昨日お会いした時には、そんな話はされていませんでしたよね?」
 前を行く仲間の背中に問いかければ、肩越しの一瞥を貰う。
「…治癒のターナ、占いのラーナ、変姿のマーナ。三姉妹の魔女は結構有名だって事を、最近思い出した」
 頭の片隅に残っていた記憶が、ラーナの家に大事そうに置かれていた水晶玉を見てザイの意識に上ったのだ。
「そんなに有名なのですか?」
「ん―――、珍しいって事も大きな要因の一つかな」
「珍しい?」
 周囲の風景に気を取られていつの間にか空いてしまった距離を早足で縮め、隣に並んできたリシャールの怪訝そうな様子にザイは律儀に説明を始めた。
「魔法が血統に重点が置かれるのはお前も知ってるだろ?けど、血を引いているからといって全ての人間が魔法を使えるという単純な話でもないわけ」
「つまり、血族の中でも魔法を使える者と使えない者がいると?」
「そういう事」
 頭の回転が速いリシャールに、ザイは指を鳴らして満足そうな笑みを口端に刻む。

【次へ】/【前へ】