一難去ってまた一難!

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「科学が進んだ今じゃその理由の見当もそれなりについていて理論的実証もされつつあるらしいけど、俺達にしてみればそういうものって感じだから、よく覚えてない」
 魔法が使えるザイ達にとっては、アーサーが言っていたように理論よりも感覚が先にくる。昔魔法理論についての本も読んだが、そういうものとして昔から在り続けてきたものだからあまりザイの中には残っていなかった。
「だから、姉妹揃って魔女で、尚且つある特定分野に突出しているっていうのは、幾何学的数値並みの珍しさな訳」
 周囲から喧騒が消え、郊外独特の寂寥感が漂い始めた道の向こうに目指すべき建物を見つけて、心なしかザイの歩みが速くなる。
「では、ラーナさんに占ってもらえば、アーサーさんの行き先もわかる可能性が高いという事ですね」
「まあな。…乗り気がしないけど」
「まだそのような事を?ザイ、いい加減勇者としての自覚を持っていただかないと。それに…」
 また説教が始まるのかと眉間に皴を刻んだザイは、それ以上言葉が飛んでこない事に並んで歩くリシャールへと初めて顔を向ける。
「それに?」
 その先で難しい顔に出会えば、ザイは途切れた言葉の先を問う。
「…少し、気になる事があるんです。アーサーさんが姿を消す前、私達がヴェーラ様に選ばれた勇者である事を教えたのですが、その時の様子が少しおかしかったのです」
 リシャールが言うのには、それは驚きというよりも畏怖に近かったのだという。
 気のせいという事も有り得ると笑う相手に、しかしザイは眉を寄せた。
「…魔王の手下、かもな」
「ザイ?」
 訝しげな視線に、ザイは本気か冗談なのか判断しにくい飄々とした様子で言葉を続けた。
「それだったら、勇者を恐れる理由も分かるだろ?自分の主人を唯一殺せる相手だからな。或いは、アーサー自身が魔王…」
「ザイッ!」
 自らの言葉を遮った呼びかけに怒りの感情を認めて、ザイは足を止める。背後を振り返れば、それが決していつもの感情任せの叱責ではない事が知れる。

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