不本意ながらも魔法使い

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 鎌を放り投げ、暁斗は鬼に向かって土下座した。
「あなたの邪魔をしようとした僕が愚かでした!どうか見逃してください!」
 夜空の上で、巨体に向かって土下座をしている図。かなり緊迫した状況であるにも係わらず、どうにも滑稽感が拭えない。
 土下座して命乞いをする暁斗。
 そんな彼を、首を傾げて虚ろな瞳で見下ろす鬼。
 止まった時間を動かしたのは、甲高い声だった。
【ちょっと!貴方、何処までヘタレなら気が済むのよ!】
 ズガン!
 見事。璃韻の跳び蹴りが、土下座をしている暁斗の側頭部を直撃した。
 ばたりと倒れ伏す暁斗。そんな彼の背中に華麗に着地した璃韻は、その額に怒りマークを浮かべながら捲くし立てた。
【目の前で誰かが傷付けば少しはやる気を出すかと思ってみれば、何ていう体たらく!貴方、何処まで駄目人間なら気が済むのッ!】
 璃韻の、少々乱暴なショック療法はものの見事に失敗した。
 怒りに任せてどうにかすると思っていた璃韻の、暁斗のヘタレ度の認識はまだまだ甘かったらしい。
 彼を助っ人に選んだ事自体が、そもそもの間違いだったのだ。
「いててててて…」
 容赦ない蹴りを食らって痛む頭を押さえながら起き上がった暁斗を、璃韻は険の篭もった金の瞳で睨みつける。
 どうしてこんな奴を選んでしまったのだろうかと、自分の目利きの未熟さに舌打ちしたい気持ちを押さえ込み、どうしたものかと考える。
 こうなったら、最終手段だ。
【―――暁斗】
 静か過ぎる声が、暁斗を呼ぶ。
 へ?と振り返りかけた彼の背を、璃韻はその小さな体躯からは考えられないような強い力で押した。
「へ…?」
 背中を押された暁斗の体はもちろん前方へ――つまり鬼のいる方へと押し出される事となり…。



「ほへ――――ッ!?」



 よくわからない悲鳴を上げながら迫り来る鬼の恐怖に涙した暁斗の、無我夢中で振るった鎌が運よくその額から生えた角を斬り落とした。
「ぎゃふん!」
 古いよ。
 そのままの勢いで暁斗は倒れ伏す。
 一方大事な角を斬り落とされた鬼はというと、自分の額を押さえた。そして、角がない事にその大きな瞳から滂沱と涙を流し…。
【母ちゃ―――――ん!】
 何とも情けない声を上げて、その鬼は脱兎の如く逃げていく。
 その様子をヒビの入ったメガネの奥から見ていた暁斗は、今になってあの鬼に親近感を覚えた。
 そうか。あいつも苦労しているのか。無駄に体躯がでかいと、それだけで強そうだと恐れられるものな。ほんと、見た目って重要だよね。
 うんうん、辛いよね。その気持ち、僕には痛い程わかるよと、一人で何度も頷いている暁斗の傍に、璃韻が立った。
【やればできるじゃない、暁斗】
 満足そうに目を細める璃韻に、体を起こして胡坐をかいた暁斗は苦笑を浮かべた。
「まぐれだよ、璃韻」
 虚勢でもなんでもない。それは事実だ。
【そうね】
 そして、その言を躊躇い無く肯定してきた璃韻に、暁斗はその苦笑をさらに苦いものへと変えた。容赦ないなぁとぼやきながら、暁斗は空を見上げる。
 そこには、満天の星空が広がっていた。


ΨΨΨΨ


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