不本意ながらも魔法使い

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―暁斗。

 名前を呼ぶ声が、暁斗の意識を緩やかな水底から呼び起こした。

―暁斗。

 もう一度名前を呼ばれ、暁斗は目を覚ます。ぼやけた視界に、黒い小さな物体が映った。
【暁斗!】
 鋭い一喝に、暁斗は完全に覚醒する。ベッドの脇に置いておいた黒縁メガネをかけ、自分の上に乗っている正体に素っ頓狂な声を上げた。
「璃韻!?」
 驚きすぎてパクパクと口を動かすことしか出来ない暁斗に、璃韻はふふんと笑ってみせる。
【やっと起きたわね。早くしないと、大学に遅刻するわよ】
 そう言って華麗に床に飛び降りた璃韻を、暁斗は思わずがしっと捕まえていた。
【こら!放しなさい、暁斗!】
 バタバタと暴れる璃韻を顔の前にかざし、暁斗は自分の見ているものが幻でないことを確認する。そして…。
「何で君がここにいるんだよ!」
 もうここには用はないはずだと喚く暁斗に、暴れるのを諦めた璃韻は、その金の瞳をキラ〜ン!と煌かせた。
【もちろん、貴方に仕事を手伝ってもらう為よ】
 当然の如く宣(のたま)った璃韻の言葉を、暁斗が理解するのにきっかり十五秒要した。
「・・・・・・・・・・」
 絡み合う、二つの瞳。
「・・・・・・・・・・」
 響き渡る、耳障りな目覚まし時計の音。
「・・・・・・・・・・」
 そして、その目覚ましの音を掻き消すような。



「そんな――――――ッ!」



 絶望に満ちた悲痛な叫びが、月曜の朝に響き渡った。


ΨΨΨΨ<


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