不本意ながらも魔法使い
6/7ページ
―暁斗。
名前を呼ぶ声が、暁斗の意識を緩やかな水底から呼び起こした。
―暁斗。
もう一度名前を呼ばれ、暁斗は目を覚ます。ぼやけた視界に、黒い小さな物体が映った。
【暁斗!】
鋭い一喝に、暁斗は完全に覚醒する。ベッドの脇に置いておいた黒縁メガネをかけ、自分の上に乗っている正体に素っ頓狂な声を上げた。
「璃韻!?」
驚きすぎてパクパクと口を動かすことしか出来ない暁斗に、璃韻はふふんと笑ってみせる。
【やっと起きたわね。早くしないと、大学に遅刻するわよ】
そう言って華麗に床に飛び降りた璃韻を、暁斗は思わずがしっと捕まえていた。
【こら!放しなさい、暁斗!】
バタバタと暴れる璃韻を顔の前にかざし、暁斗は自分の見ているものが幻でないことを確認する。そして…。
「何で君がここにいるんだよ!」
もうここには用はないはずだと喚く暁斗に、暴れるのを諦めた璃韻は、その金の瞳をキラ〜ン!と煌かせた。
【もちろん、貴方に仕事を手伝ってもらう為よ】
当然の如く宣(のたま)った璃韻の言葉を、暁斗が理解するのにきっかり十五秒要した。
「・・・・・・・・・・」
絡み合う、二つの瞳。
「・・・・・・・・・・」
響き渡る、耳障りな目覚まし時計の音。
「・・・・・・・・・・」
そして、その目覚ましの音を掻き消すような。
「そんな――――――ッ!」
絶望に満ちた悲痛な叫びが、月曜の朝に響き渡った。
ΨΨΨΨ<
【次へ】/【前へ】