合わせ鏡
勇者は旅立つ

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「ええっ!…ユヒト殿…
そんなこと、まさか本気で…」

青ざめた顔で小刻みに震えながら問いかけるリシャールに、ザイは事も無げに答える。



「本気も本気!
今日からアンが俺の代わりに勇者をやってくれるなんて、ありがたいことだぜ。
じゃあ、これからはよろしく頼むな!」

アーロンの肩をぽんぽんと気安く叩くザイの顔を見ながら、アーロンはぽかんと口を開けた間抜け面で固まっていた。



(おかしい…
ザイが、こんなにもあっさりと勇者の役目を俺に明け渡すなんて…ありえない!
俺が、ザイに「おまえは偽物の勇者だ!」と迫ったら、ザイはきっと慌てるはずなんだ。
慌てて汗をかきながら「ば、馬鹿なことを言うな!お、俺が正真正銘の勇者に決まってるだろ!」…なぁんて言い張るはずなんだ。
それをなぜ……
なぜなんだ?!
……そうか!わかったぞ!……これは罠だ!
どうするつもりなのかはまだわからんが…とにかくここで俺が、はい、そうですかと勇者の座を引き受けたら……きっととんでもないことになる…
くそっっ!危ない所だったぜ…!!)



やっと思考がまとまり口を閉じたアーロンが不敵に笑う…

「フフフフフフフ…」

「何だ、気持ち悪いな。
笑ってるんだ?
勇者になれたことがそんなに嬉しいのか?」

「……俺をナメてもらっては困るな…」

「……は?何のことを言ってるんだ?」

アーロンは口をとがらせ、その前で人差し指を左右に振りながら、ザイに顔を寄せた。



「とぼけても無駄だぜ。
あいにく、俺はおまえのそんな稚拙な罠にかかる程うぶじゃない。
おまえの考えてる事など、俺にはすべてお見通しだ!!
……しかし、覚えておけ…!
最後に笑うのは俺だということをな…!
おまえがそこまで意地を張るのなら…俺も本気を出さねばなるまい…
その時まで勝負はおあずけだ!」

そういうとアーロンは松葉杖をついた痛々しい姿で静かにその場を去っていった。

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