合わせ鏡
勇者は旅立つ

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「……なんだ、あれ?
よっぽど頭の打ち所が悪かったのか…」

「ユヒト殿…あなたという方は…」

リシャールが、ザイの両腕を握り締め、いつもの滝のような涙を流してすがりつく…



「い…痛いじゃないか…
一体、何なんだ?」

「ユヒト殿…私にはすべてわかりましたぞ!
あれは…あれはすべてあの者を欺く芝居だったのですね。
ああいえば、あの者が退散するということを計算してあのようなことを…
それなのに、私はそんなことにも気付かずに、あなたがヴェーラ様のご意志を無下にしたと腹を立てておりました。
ユヒト殿!!どうか…どうか、この愚かな私を打って下さい。
あなたを信じきれなかったこの私に…どうか…どうか、罰を与えて下さい〜〜〜」




(……怖…)


涙でぐしゃぐしゃになったリシャールの瞳は怖い程にまっすぐで…
「いや、あれは芝居じゃなくて本気だったんだ!」とは、もはや言えるはずもなく…



「馬鹿野郎!
俺達は、ヴェーラ様に選ばれし勇者なんだぞ!
なぜ、どっちか一人ではなく、二人が選ばれたと思うんだ?
それは、お互いが、信じあい助け合い支え合う心を持てということなんだと俺は思うんだ。
だけど、俺達、今までは話したことさえなかった…
信じられなくても仕方ないじゃないか…
……それに、俺だって悪かったんだ。
こんな芝居をしてもきっとあんたはわかってくれないだろうと最初から思ってた。
俺だって、あんたを信じる力が足りなかったんだ…!
俺にはあんたを打つ資格なんかない…
ごめんよ!
でも…俺、今日のことがあって良かったと思う…
俺には、あんたのことを信頼する気持ちが心から芽生えた…
あんたはやっぱり俺のことを誰よりもよくわかってくれる!
ヴェーラ様が俺のために選んで下さった最高のパートナーだってことが身に染みたよ…
アーロンには感謝したいくらいだよ。
そのことを俺に気付かせてくれたんだから…
ほら、ごらんよ!リシャール!
夕陽が俺達の友情に嫉妬して赤くなってるぜ。
これからもよろしく頼むぜ…俺の世界一大切な相棒…!」



(……なんて、そんな気色悪いこと言えるか!!)



ザイは何も告げず、ただ脱兎のごとく駆け出した。



「ユヒト殿〜〜〜!!」

片手を差し伸ばすリシャールの瞳の中で、ザイの姿がゆらゆら揺れながら小さくなっていった…

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