勇者は旅立つ
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「……あぁ…ご親切にどうもありがとうございます。
お恥ずかしい所を見られてしまいましたね…
私なら、もう大丈夫ですから。」
リシャールは差し出されたハンカチで、涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭った。
「あの…お連れ様から、ご伝言なのですが…」
「えっ?ユヒト殿から?!」
「ええ、そう、ユヒト様からです。
『しばらく頭を冷やして考えたいから、数日だけ、離れて生活しよう。』とのことです。」
「ユヒト殿がそんなことを…?!」
「ええ…その間、私達があなた様のお世話を仰せつかりました。
若様にはご不自由のないようにと、ユヒト様から言付かっております。
ささ、若様、こちらです…」
「そうですか…ユヒト殿がそんなことを…
わかりました。
では、しばらくお世話になります。」
男は、森の奥深くの崩れかけた廃屋にリシャールを案内した。
「むさ苦しい所で申し訳ないのですが、しばらく我慢して下さいね。」
「いや…私は罪人…
これでもまだもったいないくらいです。
あなた方にもお世話をかけて申し訳ありません。」
「そんなこと、お気になさらないで下さい。
さぁ、若様、お疲れになったでしょう。少しお休み下さい。」
男は、リシャールを奥の部屋に通し、外から鍵をかけた。
「信じられないな。こんなに簡単に連れ出せるとは…
しかも、あいつは何も不審には感じちゃいないようだな。
それで、これからどうするんだ、アンガス?」
「そのことなら任せておけ…」
アンガスと呼ばれる男は、紙切れに何事かを書きながら答えた。
「何、書いてるんだ?」
「ちょっと待ってろ…」
それからすぐに何かを書き終えたアンガスは、その紙切れを4つに折りたたんだ。
「ジャッキー、今からこれをあいつの知り合いの男の部屋に投げ入れて来い!
さっき走ってった男…留置場に宝石を受け取りに来た赤い髪のあの男だ。
確か、町の宿屋の特別室にいるはずだ。
それと、帰りになにか食べるものを買って来い。
わかったな。」
「ちぇっ、俺は使いっ走りか…」
ジャッキーは、口の中でぶつぶつ言いながら、宿屋を目指し駆け出した。
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