合わせ鏡
勇者は旅立つ

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「…ん?」
 等と半ば眠りに誘われながらつらつらとそんな事を考えていたザイは、片方だけ開け放たれた窓からひらりと舞い込んできた白い紙片を視界の隅に認めて体を起こした。立ち上がり、窓辺の床に落ちた紙片を拾い上げる。確認するように窓の外を見遣るも、闇に沈んだ周囲に特に変わった様子はなかった。
「何だ?」
 顎に手を当てて首を傾げながら、二つ折りにされた紙片を開く。殴り書きのような少しどころかかなり崩れた文字を追うよりも一瞬早く、微かに届いた何かが落ちる音に真紅の双眸が再び外へと移される。
「・・・・・・・・?」
 微かに眉を寄せ、ザイは視線を紙片へと戻す。真紅の双眸が無感動に材質の悪い紙に記された文字を追っていく。
 そして、最後の一文字を読み終わった後、ザイは盛大な溜め息をついた。
「何やってるんだ、あいつは…」
 急いで書いたのか、或いは元々文字が下手なのか。
 どんな理由であれ読みにくい程に崩れた文字が告げるのは、誘拐したリシャールを返して欲しければありったけの宝石を持って来いという、簡潔に述べればそのような内容のものだった。
「イシュバラ樹海の廃屋…また面倒な場所に」
 イシュバラ樹海。イシュトラの町から西に二キロ程行った所に鎮座する広大な森だ。樹齢何百年という木々達が鬱蒼と聳える森は昼間でも薄暗く、昔から魔物達の寝床となっている。といっても魔物と鉢合わせする可能性は十%もなく、肥沃な大地と豊かな水源の恩恵によって季節折々の果実や薬草が採取出来る事から、イシュトラの町の人々は気軽に森に出入りしている。しかしそれは飽く迄も森の入り口付近での話で、迷宮と化している森の深淵へと足を踏み入れるのは森を抜けた先にある町に用がある商人か旅人だけだ。
 しかも、ここ最近の世界各国の異変によって魔物達が凶暴化している昨今、魔物の時間である夜の間に森の深淵へと赴くなど自殺行為だ。

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