合わせ鏡
勇者は旅立つ
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「…というか、物凄く面倒なんだけど」
つらつらと理路整然と問題点を挙げたが、一番の理由はやっぱりそこにあった。
とにかく、面倒くさい。だって、もう風呂入っちゃったし。髪も生乾きだし。絶対風邪引くって。それに、昼間の魔物退治で結構疲れてたりするから、もうこれ以上何処にも行きたくないんだよなぁ、というのが本音。
「どうすっかな…」
紙片を片手に、濡れた絳髪を掻くザイの脳裏に、『放置』という二文字がちらつく。
リシャールの実力は知っている。彼ならば、余程強い相手でもない限り自力で脱出出来るだろう。文面を見る限りではそんなに頭がキレる相手ではなさそうだし、このまま手紙を無視して眠ってしまっても問題ないのではないかと思う。
まぁ、脱出した後に果たして無事にイシュトラの町へと辿り着けるかどうかはまたこれとは別の話になってくるのであるが。
「…最悪、あいつのことだから、誘拐されてるっていう自覚すらなかったりして」
ふと浮かんだ自身の考えにまさかなとザイは笑う。
「流石にそこまで、世間知らずでは…」
ふと、部屋に響いていた笑いが止む。
「・・・・・・・・」
乱れた文面の手紙へと視線を落とし、ザイは先程よりも少々乱暴にその燃えるような絳い髪を掻く。その唇から諦めたような盛大な吐息が洩れれば、手に持った紙片を潰してゴミ箱へと放り投げた。
椅子の背に掛けておいた上着を羽織り、同じように椅子に立て掛けておいた長剣を手に取ると、上着の裾を翻して彼は扉の向こうへと姿を消した。
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