合わせ鏡
勇者は旅立つ

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「にしても、遅いな。手紙を投げ入れてきてから随分と経つのに」
 開けられない扉に視線を向け、アンガスは吐息をつく。
 向かい側では何やらあちこちに包帯を巻いたジャッキーが同じように扉に視線を向け、開けられない事にやはり同じように溜め息をついた。
「まさか、見捨てる…なんて事ないよな?」
 ぽつりと自信なさ気に洩れたジャッキーの呟きに、アンガスはその頭を軽く叩いた。
「馬鹿言うな。そんなわけないだろ」
「でもさ、喧嘩してるようだったしさ」
 もしかしたらそういう可能性だってあるかもと、不安げに見上げてくるジャッキーに、何だか本当にそんな気になってきたアンガスも不安そうに外へと続く扉を見遣った。
 静寂を乱すのは、夜の番人である梟の鳴き声と、時折隣の部屋から響いてくる奇声のような泣き声。
 ちなみに、どちらに二人が恐怖を感じるかというと、確実に後者に対してだ。
 仕舞いには何やら呪文のようなものまで聞こえてきて、どうしてこんな変な相手を誘拐してきてしまったのかと、二人はこの時になって後悔し始めていた。
 相変わらず、入り口の扉は閉じられたままだし。
 もう諦めてリシャールを解放しようかと二人が思い始めた頃、不意に夜の気配を乱す足音が響いた。刻まれる足音は次第に大きくなり、入り口の向こうでその足音の主が立ち止まる。
(来た――――ッ!)
 これであの不気味な泣き声とも呪文とも取れる恐怖とおさらば出来ると、二人が喜んだのも束の間。
 アンガスとジャッキーが見守る先で、ゆっくりと扉が内側に開かれていく。
 そして、月明かりを背にして立つ長身の、その髪の燃えるような絳さだけを認めたのを最後に、二人の意識は闇へと落ちていった。




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