合わせ鏡
勇者は旅立つ
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「あああぁぁ…やはり、ここは私の命を以って償いを…」
「―――戯言もいい加減にしろよ」
腰に佩いた剣を抜いてその刃を自らの首に当てたリシャールは、不意に背後から届いた聞き慣れた声に弾かれたように振り返った。
「ユ…ユヒト殿ッ!」
入り口の壁に寄りかかり、腕を組んだザイの些か不機嫌そうな真紅の双眸がリシャールを見つめていた。
「せっかく危険を冒してまで来たってのに、死なれちゃ俺の苦労が報われないだろ」
「危険…?」
言葉の意味が解らずに首を傾げるリシャールに、ザイは盛大な溜め息をついた。
「リシャール…お前、自分が誘拐されていたっていう自覚、本当になかったのか?」
「わ…私が、ゆゆゆゆ…誘拐!?」
まさに寝耳に水とはこの事。
目を丸くしてあたふたするリシャールに、ザイは再び疲れたように溜め息をついた。
「…アンタ、人を信じ過ぎだ」
億劫そうに壁に預けていた重心を元に戻し、ザイは部屋を出て行こうとする。
「あ…ザイ!」
その背を、リシャールは呼び止めていた。
「あの…えぇと…」
見据えてくる真紅の双眸に、リシャールは言葉に詰まる。けれど意を決し、顔を上げた。
「どうか、ザイの気が済むまで私を打って下さいッ!」
願いを告げる声音は狭い室内に反響し、やがて周囲を包み込む闇に呑まれて消える。が、ザイからの反応がなければ、思わず閉じてしまった瞳を薄く開けた。
目が合ったのは、気だるげな真紅の双眸。
「必要性を感じない」
短く告げて、今度こそ部屋を出て行くザイ。
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