勇者は旅立つ

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 その背を呆然と見送っていたリシャールは、彼の言葉を何回も頭の中で反復した。
 必要性を感じない―――つまりそれは、相棒を疑ってしまった自分を赦してくれるという意味で…?
 顔を伏せたリシャールの体が、ふるふると震え始める。それはもちろん、感激からくる震えであり。
「ユ…ユヒト殿おぉおおッ!」
「うわ!リシャールッ!だから、抱きつくという感情表現は……って、人の服で鼻水を拭くな―――ッ!」
 廃屋を出て行こうとしたところで後ろから抱きつかれたザイの叫びも虚しく、リシャールは感激にむせび泣く。
「ユヒト殿ッ!やはり、貴方は私の世界一大切な相棒ですぅ〜!」
 涙を浮かべた何処までも真っ直ぐな瞳で見つめられ、ザイは顔を引き攣らせた。
(やっぱり…怖い…)
 これは、早急に何かしら対処しなければならない気がしてきた。でなければ、自分の心臓がもたない。
「ユヒト殿ぉおおお!」
「やかましいわッ!」
 ゴン!と鈍い音が響き渡り、漫才のような喧騒が掻き消えた夜の森に、呑気な梟の鳴き声が木霊した。

***


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