合わせ鏡
勇者は旅立つ

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「ま…まだかよ…」

イシュバラ樹海は、松葉杖をついて入る所ではないとアーロンはしみじみと思った。
薄暗い上に、地表に露出した大木の根が網の目のようにはびこり、アーロンの行き先を阻む…
おそらく健康な人間でもここを進むのは大変なことだ。
それをあちらこちらに怪我をして松葉杖をつく身で進むのだから、アーロンの体力の消耗は激しく、その割りに距離はたいして進まない…



(ザイの野郎、もう魔物にやられただろうか?
そういや、ここは魔物の巣窟って聞いてた割にはちっとも出てこないな。
ま、良いか。
魔物にやられなくても、どうせ、誘拐犯にやられてる頃だろうからな。)



勇者になれる…
褒美をたんまりともらえる…

アーロンの頭の中は妄想ではちきれんばかりに膨らんでいた。
感情が高ぶり、獣のような雄叫びを発しながらアーロンは樹海の中を進んで行く…










「ユヒト殿…
本当に…本当に、私の先程の過ちを許して下さるのですか?」

大きなたんこぶを作ったリシャールが、すがるような瞳を向けてザイをみつめた。



「…ったく、あんた、相当しつこいな。」

「それは、ユヒト殿がはっきりと『許す』とおっしゃって下さらないからで…」

「あぁ、わかった、わかった。
許す、許す、許します!……これで良いだろ?
許したんだから、もう言うなよ!」

「……うっ………そんな投げやりな…
やはり、ユヒト殿は本当は私の事を許して下さってはいないのですね…」

その場に立ち尽し、リシャールは懸命に涙を堪えている。



(あぁぁぁぁぁ…なんて、面倒くせぇ奴なんだ…
まだ、村を出たばっかりだというのに、こんなことばっかりじゃないか…
もう俺やっていく自信ねぇ…
……あぁ、それに、こいつを助けに行ったのも失敗だった…
あのまま放っておけば良かった…)



「ユヒト殿…」

涙でいっぱいのリシャールの瞳は、ザイには重過ぎる熱視線を投げかける。



「あ、そうだ!これ、返しとかなきゃな!
それにしても、腹減ったなぁ…」

リシャールの視線を逸らし、話題を逸らし、ザイは宝石袋をリシャールに放り投げるとさっさと先を歩いて行った。



「ユヒト殿…まだ、話は…」

リシャールが、ザイに再び話を振ろうとしたその刹那、尋常ではない男の叫び声が樹海の中に響き渡る…



「今の声は…?」

「行ってみよう!」

二人は声の方へ駆け出した。

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