勇者は旅立つ
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「嘘……」
それはあっという間の出来事だった。
剣と剣が数回火花を散らしたと思ったら、リシャールが剣士の首筋に鋭い刃先をあてていた。
「ま、参った!」
剣士は、震える声で自分の負けを認めた。
あたりからは割れんばかりの拍手がわきあがる。
「さすがはビアンキ家の若様だ。
剣聖と呼ばれたお父上にひけを取らない腕前ですな。」
「け…剣聖…?」
同じ村にいたというのに、もの知らずにも程がある。
メレハの村人ならもちろんのこと、この町の者達もが知っているようなことをザイは知らなかったのだ。
「へぇ…人は見掛けによらないもんなんだなぁ…」
ザイはまだ信じられないといった顔をしてリシャールをみつめている。
(さすがはリシャールだ…)
物陰からその様子をじっとみつめる男がいた。
(思った以上だ。
体力はともかく、リシャールのあの腕前は勇者としてふさわしい。
そうでなくとも、奴は由緒正しきビアンキ家の跡取り。
多少、暑苦しい部分はあるが礼儀や道理をわきまえた人物だ…
やっぱり、あいつの方だったか…
俺はザイより成績も良かったし、腕っぷしも上だ!
血筋はどっちもどっちだが、どう考えても俺の方がザイより勝っているのは間違いない!
なのに、なぜ、奴が勇者に選ばれたんだ?
おかしいじゃないか!
勇者に選ばれるのは俺とリシャールのはずだ!
これにはきっと何かからくりがあるに違いない!
必ずやそれを暴き、俺こそが真の勇者だということを世間の皆に知らしめてやる!)
黒ずくめの男・アーロン=デルフォードもまたザイやリシャールと同じ18歳。
極めて自意識の過剰な男だ。
女神ヴェーラのお告げが発布された時から、アーロンはずっと二人の様子を覗っていた。
自分が勇者に選ばれないはずはない…!
これは何かの間違いなのだ、きっとどちらかが卑怯な手を使って勇者に選ばれたのだという妄想にとりつかれていた。
そして、今、ついにアーロンに結論が出たのだ。
偽物の勇者はザイだということが。
これからの自分の使命は、ザイがどんな手を使って勇者になったかを暴く事なのだとアーロンは決意を新たにした。
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