合わせ鏡
勇者は旅立つ

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 偽者の勇者がザイであると確信したアーロンは、早速行動を開始した。
 自分がしなければならないのは、ザイが偽者の勇者である照明をする事。そして、本当の勇者は自分だという証拠を提示する事だ。
 この二つを同時に証明する事の出来る秘策を、アーロンは思いついていた。題して、『ごろつきに絡まれているリシャールを助けて感謝されちゃおう!』作戦。
 お金で雇ったごろつきに二人を襲わせ、リシャールを置いて逃げ出したザイの代わりにタイミングよく自分が現れて見事彼を助けるのだ。そうすれば、きっと誰もが気付くはずだ。本当の勇者は、仲間を置いて逃げ出したザイではなく自分であると。
「流石、俺。超天才!」
 さらりと前髪を流し、自分で自分に酔いしれる事数十秒。アーロンは早速実行に移した。
 が、結果はアーロンが計画した通りにはならなかった。
 郊外を歩いていた二人を襲わせる所までは順調だったのだ。だが、誤算はそこから始まった。
 ザイが逃げ出すとか、自分が助けに行くとか。そんな展開になる前に、アーロンによって雇われたごろつき数名は見事なまでにリシャールによって成敗されてしまったのである。まさに瞬殺という表現が相応しい、あっという間の出来事であった。
 そもそも、リシャールの腕前を知った時点でこんな計画が成功するはずがないと気付くべきであったのだが、何分にもこのアーロンという男からは客観的視点というものが綺麗さっぱりと抜け落ちているので、そんな基本的な矛盾点に気付けという方が無理な話なのである。
 更に駄目だしで現実を自分の都合のいいように解釈するというかなり自己中心的な性格から失敗の欠点を見直す事もなく、次の策が思い浮かぶや否や先程同様即実行に移ったのだった。
「流石、俺。超イケテる!」
 題して、『転がり落ちてくる岩から格好良くリシャールを助けて、尊敬の眼差しまで頂いちゃおう!』作戦。
 己の腕で押さえてある大人の背丈よりも少し小さい程度の岩を一瞥し、アーロンはにやりと笑う。
 どうやって大きな岩を一人でここまで持ってきたのかとか、そもそもそんな岩何処で見つけてきたんだよ、的な突っ込みは今回はしない方向でいこうと思う。人間、深く思い込みさえすれば何でも出来るという一つの証拠とでもしておくのが最も平和的な解決策であろうか。
 先程よりも十秒程自己陶酔に費やす時間を長くしていたアーロンは、ふと我に返る。が、その時は既に手遅れ。目標にしていた二つの影は、視線の遥か先にあった。
「あぁ…ッ。ま…ッ」
 待て、と。思わず、先を行く背中に手を伸ばした時だった。
 伸ばされた腕はしかし、短すぎて下方を歩く彼等には届かない。然れど、目の前にある物を支えるには充分である。
 緩慢な動作で動かした視線の先。ぐらりと揺れるは、自分の肩口辺りまであろう巨石。
 アーロンは、絶望を聴いた。
「・・・・・・・どわあああぁぁ!」
 自分に向かって転がり落ちてくる巨石。
 必死な悲鳴が、高い青空へと吸い込まれて消えていった。



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