合わせ鏡
勇者は旅立つ
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かくかくしかじかで、現在に至る。
「こうなったら…最終手段だ!」
過去を思い起こしてしばらくの間怒りに震えていた体は、伏せていた顔を上げた瞬間にそれは意欲のみなぎりの証拠へと瞬時に切り替わった。
「明日、リシャール達は魔物退治に向かう!そこに颯爽と俺が現れて、ぱぱっと魔物をやっつけてやるッ!」
学習能力というよりも本能的な防衛であろうが、今度は怪我をしていない左手をしっかりと握り締め、沈み行く夕陽へとアーロンは誓いを新たにした。
題して、『秒殺退治に君の心は俺の虜!』作戦。
何事にも題名をつける癖直せよ、と突っ込んでくれる他者はやはり一人として存在せず。
「ふははははは!ふふふふふ!あははははは!」
夜に染まり始めた空の下、近所迷惑も考えずに高々と笑い続けるアーロン。
「あはははは!あ―はっはっはっは…ゴホンッ。グォホンッ。ゴホ…ッ」
笑い過ぎて、むせたらしい。
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ぞくりと、不意に走った悪寒にザイは思わず己の体を抱き締める。
「どうしました?ザイ」
無事知り合いからお金を借りて宿代やら食事代やらを払い終えて就寝の準備をしていたリシャールの訝しげな呼びかけに何でもないと返答を濁すも、ザイは眉間に刻んだ皴を深いものにした。
(何だ…?すっげ―、厭な予感…)
お金も借りられて、仕事も決まった。更に、色々と情報収集している間に盗られた宝石も取り戻す事が出来た。宝石が戻ってきた時点で働く必要もなくなったのだが、仕事を引き受けてしまった以上放り出す事はあまりにも無責任だ(とリシャールに懇々と諭された)。
何はともあれ、多少なりともトラブルはあったとしても総合的に見れば順調に進んでいるこの旅であったが、物事はそう何もかもが上手くいくものなのかと、杞憂に等しい不安は、結局寝付くまでザイの中から消えてくれる事はなかった。
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