囚われて…

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 女王の城の最奥に作られたその空間は、地面に刻まれた魔方陣が放つ青白い光に照らされて場違いな程に神聖に見えた。しかしそれはやはり見かけだけで、少しでも魔法の知識がある者が見たならば、銅と亜鉛との合金である真鍮の地面に刻まれたその魔方陣が魔封じのものである事がわかったであろう。
 触れたその地面は冷たく、部屋全体が纏う冷気と相俟って存在者の体温を奪っていく。篝火などは一切燈されておらず、しかし人間よりも遥かに高い視力を有する竜人は、その爬虫類特有のぎょろりとした目で侵入者がいないか、或いは真鍮の檻に入れられた者が脱走を図らないか、随時監視していた。
 意識を回復した時には、既にこの魔封じの呪文が掛けられた真鍮の檻の中だった。しかも、両手首には細かい文様が刻まれた、これまた魔封じの枷。人間相手に随分と用心深いと、その念の入り様に苦笑が洩れたのは致し方のない事だ。
 地面と枷に施された魔封じの呪文。そして、随時目を光らせている五人の見張り。どんなに楽観的に見ても、逃げる事など不可能だった。
 ならば、導き出される答えは一つだけ。
「…寝よ」
 迷いなどなかった。天晴れな即決だった。一切の躊躇いもなく、ザイは再び夢の世界へと旅立つ事を決めた。
 とにかく、寝不足なのだ。惰眠を貪る事が趣味なのに、何だかここ数日自分頑張っちゃったから、体力が消耗しているのである。逃げ出す算段をする前に、取り敢えず失われた体力を回復する事が最優先事項だ。だから、とにかく寝よう。
 などと考えるはずもなく、ただ寝たかっただけの話だ。命が危険に晒されても面倒くさがり屋な面が覗くというのは、もういっその事その豪胆さに拍手を送りたくなってくる。どんな状況でも寝むれるというのは、一種の特技ではないだろうか。
 そんなこんなで、魔方陣が放つ青白い光の中に横になるザイが目覚める気配はまるでない。そんな彼の、あまりの緊張感の無さに、見張りの竜人達の気も、多少は緩んでいるかもしれなかった。


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