囚われて…

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 静寂が、どれ程の時間流れていただろうか。やがて、一つの足音がその静寂を掻き乱した。
 階段を下りてきた竜人と言葉を交わした見張りが一つ頷き、未だ穏やかな寝息を立てているザイへと近付く。檻の鍵が外される音にも反応はなく、竜人の手に持たれた槍が彼の首筋へと突き付けられた。
「――起きろ。女王様がお呼びだ」
 声音の中に含まれた殺気に気付いたのか、真紅の双眸が薄闇に浮かび上がる。首筋に触れる冷たさを無言で押しのけ、体を起こしたザイは一つ大きな欠伸を洩らした。硬い地面で長時間眠っていた所為で強張ってしまった筋肉をほぐす充分な時間も与えられず、ザイは竜人に挟まれる形で真鍮の檻を出る。
 後ろ手で両手首を拘束されれば、逃げ出す意思など沸いてこないというもの。導かれるままに素直に進み、やがて荘厳な佇まいの観音扉の前で足を止めた。設けられた窓から外を眺めれば、地面が遥か遠くに見える。
 随分と登ってきたものだ。逃げ出す最大のチャンスが目の前にあるのに、その期待は下を見た瞬間に打ち砕かれてしまう。その絶望を計り知る術はないが、ここに通される意味を知っている者には絶大の効果があるのではないだろうか。
 生きる希望など、もう何処にもないと。死への覚悟を持たせる為に。
(――随分と、悪趣味な)
 皮肉気な笑みがその口端に刻まれれば、内側へと開いていく扉。一瞬目を射た光にその真紅の双眸が細められるも、その正体が部屋の壁という壁に備え付けられた鏡が反射した光だとすぐに理解する。
 背中を押されれば、自然と部屋に敷かれた赤絨緞を踏む足。背後で音を立てて閉じられる扉。竜人達は部屋に入る事は許されていないのか、密閉された空間にはザイと、部屋の奥に設けられた椅子に座る女王だけとなる。
「いらっしゃいな」


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