囚われて…

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 聴覚を刺激するのは、優美な声音。四方を埋め尽くす鏡に映る己の姿を認めて苦笑していたザイは、その呼びかけにやはり抗わなかった。
 まるで血のように真っ赤な絨緞を踏む足並みは揺るがなく、それ程あいていなかった女王との距離は数歩で縮まる。二人を隔てていた距離が無くなれば、エメラルドやサファイアなど、様々な宝石で彩られた椅子に優雅に座る女王の姿が克明に認識できた。
「お前、魔法が使えるんですってね」
 三日月形に吊り上がる、真っ赤な唇。そこから微かに覗く舌は爬虫類のそれで、人に擬態してくれていただけ有難いと、こんな状況になってまでザイはそんな事を思った。
 伸ばされた手が、ザイの顎を掴む。体温を感じさせない冷たい手に、前のめりになったザイは両膝をついた。結果として、相手を見上げる形となる。
「今では、魔法を継承する血は稀少だからね。さぞ、その精気は甘美な味がするんでしょうねぇ」
 妖艶に微笑めば、赤いマニキュアが塗られた長い爪がザイの頬を撫でる。
 ザイの真紅の双眸が女王から外される。釣られるように部屋の片隅に打ち捨てられたそれを認めれば、彼女はこれ以上ない程の優しい笑みを浮かべてみせた。
「私の玩具だったものよ。つい先程、壊れてしまったけれども」
「…壊した、の間違いだろ」
 間違いを訂正すれば、戻される緑の瞳。視線が交錯すれば、楽しそうな笑い声が部屋を満たした。
「ほほほほほ。中々、肝の据わった人間だこと。でも、私は、恐怖に泣き叫ぶ姿の方が好きなの」
 肝が据わっているというよりは、どちらかというと開き直ったという表現の方が正しいなどとこれまた下らない事を考えていたザイは、胸元に感じた鋭さに微かに息を呑む。
「私達魔物の間には、こんな噂があってね」
「つ―――ッ」
 胸元に当てられた女王の爪が、微かに皮膚を破る。


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