囚われて…

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 痛みに顔を歪めたザイの姿に、女王は満足そうに微笑んだ。
「魔法を継承する者の心の臓を喰らえば、不老長寿になれるらしいわ」
 本当なのかしらね、と。愛らしく小首を傾げる女王の、その緑の双眸が浮かべる光は何処までも残忍だ。
「さぁて。どんな方法がお望み?少しずつ、精気を吸われたい?一瞬にして命を奪って欲しい?それとも…」
 女王の顔が焦点を失い、赤い唇がザイの耳元で囁く。
「生きながら心の臓を喰われ、近付いてくる死の足音に恐怖したいかしら?」
 視界の端で赤が散れば、鈍痛を訴えてくる右頬。
 爬虫類特有の長い舌が、零れ落ちる雫を掬う。その味に、女王は蠱惑の笑みを刻んだ。
「ふふ。そんなに心配しないで。せっかくの珍しい玩具ですもの。そんな簡単に壊したりしないわ」
 まるで愛おしむかのように、女王はただ、ザイの頬を優しく撫でる。
「でも、少しでもおいたをしたら、気が変わって壊しちゃうかも。私、気分屋さんだから」
 結局辿り着く場所は同じなのだから生の長さは大して違いはないのではないだろうかと思ったが、ザイは沈黙を守り続ける。
 魔法は使うなと暗に告げてくる相手だが、封じが施されている今の状況では不可能である。自由を奪っている枷を外す鍵は恐らく女王が所持しているのであろうが、ここは彼女の領域。足掻きなど無意味だ。
「それじゃ。ちょっと、味見させてね」
 顎を掴む手に力が篭められ、強制的に顔を上げさせられる。近付いてくる唇に刻まれた三日月の笑みがひどく印象的で、重ねられたそれはしかし温もりは与えてくれない。
 体の中から、何かが奪われていくのを感じる。それは決して痛みを伴いはしなかったが、次第に大きくなっていく喪失感は、はっきり言って不愉快だった。
 意識が遠のき始める。その真紅の双眸が次第に焦点を失い始め、瞼の裏に隠れたその、刹那。
「ザイッ!」
 乱暴に扉が開かれる音と共に、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声がザイの耳朶を叩いた。




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