囚われて…

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「それに。リシャールの居場所なら分かったよ」
 引き攣った笑みを浮かべて冷や汗をかいているアーロンから視線を外したザイは立ち上がる。そのままアーロンを残して歩き始めた。
「本当か!?それは何処だ!?」
「ダイタル山脈」
 ザイの歩く速度は常に速い。松葉杖を突いた状態でどうにか追いつこうと己を追ってくるアーロンの問いかけに、ザイは素っ気無く答えた。
「ダイタル山脈って…イシュバラ樹海の西方に聳える山脈の事か!?」
 必要以上に大きなアーロンの声も。一歩踏み出す度に地を叩く松葉杖の音さえ、今のザイの癪に障る。
「あそこは、今は魔物の巣窟になっているっていう噂だ。そんな所、俺達二人では、到底…」
 背後から届いた泣き言に、ザイは立ち止まった。ゆっくりと振り返ったザイの、その真紅の双眸が冷酷な輝きを宿してアーロンを捕える。
「アン。お前が俺に言ったんだ。リシャールを助けると」
「それは当然だろう!?いくらリシャールが強いからといって、あの竜人相手に一人で脱出できるはずがない!」
「だったら…」
 一度伏せられた真紅の双眸が、再びアーロンを正面から射抜く。
「覚悟を決めろ」
 短く告げ、ザイはアーロンに背を向ける。歩を進め、少し遅れて自分を追ってくる石畳を叩く音に盛大な舌打ちをした。
「アン」
 足を止め、怪我をした体で懸命に歩き続ける彼を呼ぶ。足元に注意を払っていたアーロンが顔を上げれば、近くの石垣を指差した。
 どうやら、座れという意味らしい。アーロンは訳が分からなかったが、取り敢えず彼の言う通りに石垣に腰を下ろした。
「ザイ、何を…」
「黙ってろ」
 先程とは立場が逆になった相手に問いかけた言葉は一蹴される。そんなザイの命令口調に反射的に噛み付こうとしたが、自分の顔の前に重ね合わせた両手を翳して瞳を閉じたザイを中心として生み出された風にそのタイミングを逃した。

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