囚われて…
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「そんな…。ザイが…ザイが食料に…?」
「あれ?ちょっと、君…?」
まるでこの世の終わりのような表情で地面に手をついたリシャールの耳に、されど金髪の青年の言葉は入ってはおらず。
「私がいけないのだ…。私が…私が、体力の限界で気を失ったから…」
ふるふると、肩を震わすリシャール。それは確実に感情爆発の徴候なのだが、今日初めて会った青年にその事を悟れという方が無理な話であり。
「あの…君、何処か具合でも悪…」
膝をつき、青年がリシャールの肩に手を置いた時だった。
「ユヒト殿おおお!私をお許し下さいぃぃッ。この愚かな私を、どうかああああ!」
絶叫。
そのあまりの嘆きように、金髪の美青年は思わず後ずさっていた。
(こ…怖い…)
ルームメイトに引かれていることにも気付かずに、リシャールは嘆き続ける。
「食料などと、何と惨い死に方でしょう!あああああ…この罪は、私の命を以ってして…!」
勢いで腰に手を遣るも、そこに剣があるはずもなく。
「く…ッ。これは、ヴェーラ様のお告げなのですか?ユヒト殿を失っても、私一人で旅を続けろと…」
そんな残酷な!と天を仰ぎ見るリシャールは、はっきりいって危ない人一歩手前に見える。
「いや…まだ死んだと確定しては・・・・・・!?」
些か大袈裟すぎるリシャールの反応をどうにかしようとした金髪の青年は、嘆きの声を縫って微かに届いた喧騒に格子の向こうにわだかまる薄闇を見遣った。
近付いてくる喧騒。そして、青白い輝きと共に刻まれる魔方陣。
「―――“エクセプション”」
響き渡った呪文。刻まれた魔方陣が閃光を放ち、響き渡る爆発音が全ての音を飲み込んだ。リシャール達を閉じ込めている牢獄の扉が爆破される。
「勝手に人を殺すなよ、リシャール」
巻き起こった砂埃に咳き込んでいたリシャールは、耳に届いた聞き慣れた声にはっと顔を上げた。何処からともなく吹き込んできた風に煙の払われた視界の先に、弓をつがえたザイの姿があった。
「ユ…ユヒト殿ッ!生きていらしたのですね!」
感激の涙を滂沱と流すリシャールに、ザイは盛大な溜め息をつく。だから勝手に殺すなと、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「―――リシャール」
静かな呼び声と、放物線を描いて投げられた長剣。反射的に受け取れば、視線を遣った先で出会った不敵な笑み。
「お前の出番だ」
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