太陽と月の奏でる場所で
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天は何故奪う。何故奪うだけ奪って、何も与えてはくれないのだ。
雷鳴。激しい雨。まるで、誰かの死を悼む者達の哀しみの涙のようだ。
―貴方と…一緒…に…、いき…たかったの…に…な。
脳裏に蘇る、彼女の言葉。
一緒に出掛けようと、約束したのは一週間前だったのに。あの時は顔色もとても好くて、その願いは叶うと、信じられたのに。なのに、集中治療室に入れられた彼女の顔には、明らかな死相が浮かんでいた。もう長くはないと、誰もが悟り、そしていずれ訪れる死に覚悟していた。
滅菌処理された手袋越しに握り締めた細い手。殆んど音にならない言葉。
彼女が死ぬ?この世界からいなくなる?
そんなこと、誰が認めるものか。その死を覚悟して悲壮な顔で佇むその場にいた全ての人間を殴り倒したい衝動を抑えながら、彼は飛び出した。
暗い雲を走る雷光。叩きつけてくる春の雨。
「天よ!何故貴方は奪うのかッ!」
辿り着いた屋上で、彼は吼える。
だが、応える声などあるはずもなく。ただ激しい雨が、振り仰いだその顔を叩くだけ。
両拳をフェンスに叩きつけ、己の無力さに顔を伏せると、その瞳からとめどなく涙が流れた。一度溢れ出たら止めることも出来ず、彼は絶叫した。
その悲痛な叫び声は、雷鳴と激しい雨音に紛れて周囲に響くことはなかった。
涙が、声が枯れるまで叫び続け、やがれ彼は虚ろな表情で顔を上げた。
そして、その視線がフェンスの向こう側へ移されて―――。
「――――これ以上余計な仕事を増やして欲しくないな」
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