太陽と月の奏でる場所で
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昨夜遅くまで降っていた雪は日が中天に差し掛かる頃には止んでいた。厚い雲は晴れ、柔らかな日差しが室内へと差し込んでいる。
開け放たれた窓から少し離れた巨木の枝にとまり、ラウは病室の様子を見守っていた。
白色のベッドに横たわった少女。その傍らには、両親らしき人物が心配そうに立ち尽くしていた。瞼が震える。ゆっくりとその瞳が開けられた。
涙を流す母親。淡く微笑む父親。意識を取り戻した娘を、二人は愛しそうに抱き締めた。
幸せそうな親子の様子に、ラウはその赤い瞳を細めた。
「…どうか、幸せに」
呟きは、絶対に彼女には届かない。それでも、この気持ちだけは。
ラウは静かに瞳を閉じる。いずれ訪れる魂の消滅に、一片の恐怖も感ずる事無く。凪いだ心でただ願うのは、愛しい人が愛した者達の幸せ。
地平線へと陽が沈む。橙色に染まる空。冷たい夜の帳が下りる前の、束の間の優しさ。全ての者達の至福を願う、茜色の空。
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