海を越えて

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 ロータリナの町を出発してから五日目。毎日のように繰り返される魔物の襲撃に些か悪戦苦闘しながらも辿り着いた、港町として賑わうハベッテの町には大きな図書館がある。物流が盛んな為か、各地から集められた蔵書の数は、アヘナ大陸一と言っても過言ではないだろう。
 天井近くまである高い本棚は何十列にも及び、薄暗い通路の一つにザイの姿があった。魔法関連の書物が集められている一角で巻物を紐解いているその横顔は真剣そのものだ。
「…これも同じか」
 かなり古い時代に書かれたと推測できる巻物を最後まで読み終えたザイは、盛大な溜め息をついた。それなりの尺がある巻物を器用にくるくると巻いていき、紐で留める。
「やっぱり、体を入れ替える魔法は、その本人にしか解けないか」
 貴重文献であるはずの巻物を無造作に元あった場所に戻し、手にした分厚い本のページをぱらぱらと流し読みしながら、やはり導き出される答えは一つだけ。
 変化系統の魔法は、術を掛けた者にしか解けない。
 元々、ザイの得意分野は攻撃系統だ。その為、知識はどうしてもその方面に偏る。治癒はある程度必要だったのでそれなりに知ってはいるが、変化系などとんと縁がなかったので、必然的に知識不足であった。
「まぁ…解けないことも、ないみたいだけど」
 不足した知識を補おうと朝から変化系統魔術に関する書物を読みふけり、いくつかの例外も発見出来た。魔術構成も理解出来たし、彼に掛けられた魔法を解けないこともないのだが。
「九十パーセントの確率で、俺が死ぬ」
 魔術解除とは違う。第三者が発動中の魔法を無理矢理解く事は、魔法を構築している数式や法則を力任せに破壊するという事と同義語だ。竜人に囚われた際に施された真鍮の枷を粉砕した時のように、自らの魔力が相手の力を凌駕し、尚且つ相殺するだけの魔力の差が必要になってくる。
 ぶつけた魔力が相手のそれを上回らなかったと仮定した場合、それは全て魔術師に還ってくる。それは即ち、術者の死を意味する。

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