海を越えて

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「海の神、ねぇ…」
 アルヘレナの海を守る帝王、ポセイ・メルティ。彼の海神は、とても気難しい性格として知られる。その逆鱗に触れたならば、海は荒れ、神の使いが自らの領域を侵す船を海の底へと引きずり込むのだという。
「だから、すまねぇな、ザイ。当分、船は出せそうにねぇ」
 船長の謝罪に、ザイは軽く肩を竦めて応える。
 ナルク村のあるシュリア大陸とアヘナ大陸は陸路では繋がっていない。彼の大陸に渡る為には、二つの大陸の間に悠然と横たわるこのメッシェ海を、どうしても越える必要があった。
 いかな幾多もの荒波を越えてきた腕の立つ船長だとしても、神の使いともなれば手も足も出ないだろう。神の怒りが鎮まるのを、ただ待つだけが、今の彼等に出来うる最善の方法だった。
「じゃあ、出港できる目処が立ったら教えてくれ」
 海の男に泊まっている宿屋を教えたザイは、踵を返して桟橋を後にした。
「神の使い…まぁ、ただの魔物だとは思うけど。誰か、退治してくれないかなぁ」
 町のそこかしこに建てられた出店を興味半分で覗きながら帰路につくザイは、そんな他力本願な願いを口にする。
 ここで、自分達が魔物退治に乗り出そう!などという考えが微塵も浮かんでこないのが、ザイがザイたる所以だった。

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