海を越えて
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(チャンスだ!!)
ザイの顔に黒い微笑が浮かんだ。
「あの〜…ちょっとお尋ねしたいのですが、最近、舟を海中にひきこまれているのはあなたさまで?」
『イカにも。」
ザイの質問に巨大イカの表情が一変した。
『最近の人間共は、海への敬意を忘れきっておる。
去年の台風で壊れたポセイ・メルティ様の銅像はいまだ修理もせずにそのまま捨て置かれ、年に一度の海神祭も開催しなかった。
そんな人間共に天誅を下すため、我はこうして現れたのだ。』
「そのようなことがあったのですか。
それは申しわけございませんでした。
海神様の像はすぐに修理させます!
海神祭もこれからは間違いなく奉納させていただきます。
ですから、どうか許してはいただけないでしょうか?」
『ならん。
そのようなことで簡単に許しては、人間共はまた同じことを繰り返すに違いない!』
巨大イカの瞳が吊り上がる…
「……わかりました。
それでは、生贄を捧げるということで許してはいただけないでしょうか?」
『…生贄…?』
「はい、ここにおりますアーロンをあなた様に捧げます故、それでお許しいただけないでしょうか?」
『な、なに…この者を我に…?』
巨大イカの足が急にぐにゃぐにゃと奇妙な動きを始めた。
「ええ、煮て食おうが焼いて食おうが、あなたさまのお好きなようにしていただいてかまいません。」
『す…好きなようにして構わんとな…?』
巨大イカの身体が、茹で蛸のように赤くなる。
「お、おいっ!ザイ!
おまえ、な、な、なにを…!」
小刻みに震えるアーロンの顔は、巨大イカとは裏腹に血の気を失っていた。
『よし、わかった…
それで手を打とう…』
「ありがとうございます。
それでは、今後はもう二度と舟は襲わないと約束して下さいますね?」
『あい、わかった。
我は二度と舟は襲わん。』
「……それと…ついでといっては何なんですが…
私達をシュリアに送ってはいただけないでしょうか?」
『お安いご用じゃ。』
「では、どうぞ。
お受け取り下さい。」
そう言うと、ザイはアーロンの背中をぽんと突いた。
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